「09,野の花」

筆竜胆(ふでりんどう)

二輪草

華鬘(けまん)

蒲公英(たんぽぽ)

今年も又 君に逢えたと言う人と すれ違いたる山の辺の道

                                  風うさぎ

花満載の花籠が一度に天井で覆されたような
弾かれたような春の到来だった。
かって過ごした北国も、同時に花が咲きだすとは言われているが
今年の花の咲き方に比べれば、ずっと静かなもののように思い出される。

目をつむると暗い闇の底に蛍光ピンクの桜の花びらが
渦巻く様子は、我ながら少し尋常ではない気がした。

花の狂乱から自分を取り戻すには、私と等身大の花の元へ
急ぎ帰っていかねばならない必要性を感じた。
目を空から転じて、足もとに密かに息づく花たちのもとへ。

気が付けば、山は驚くほどの速さで若緑の衣をかつぎ
山鳥は山懐で、くぐもりの声を忍ばせ始めていた。
まだ、すっかり伸びきらない木の葉が、足もとに零す日の光を受けて
野の花たちは、声もなく密やかに花開きはじめているだろう。

山が又、幾重もの木の葉のベールに覆われ、深い秘密を抱き始める前に
出会わなければならない小さな命の微笑(ほほえみ)がある。

(埼玉・嵐山町)