07紫陽花ー3

「40年前の話をしましょうか」
「謎謎の続き?」
「まあ、多少は、、、」


高校の期末試験が終わり
休暇を利用して
盛岡を旅していた時。
あれはI大学の
農学部が所有する
敷地だったか、公園だったか
詳しい場所は
もう忘れたけれど、そこに
一輪で一抱えもある
大きな紫陽花が咲いていたわ。
まだ、9月だというのに
肌を刺すような冷たい雨の中で。

「それはまるで、夏の空のようにスッキリとした青色の紫陽花だった。
私は本当に欲しかった。盗もうとすら思った。」
「紫陽花の花をかい?」
「いえ、紫陽花の色を。
この紫陽花の青を自分のものに出来たら
きっと私は救われる、そう思った。」
「なるほどね、この国じゃあ花から色を盗んでも
罪には問われないだろうもの。盗っちゃえば良かったんじゃない?」

「だけどほら、私が色を盗んだらこの世から青い紫陽花が消えるじゃない?」

(だから紫陽花は今でもこの世に有って
ひたすら、青い色に向かって色を変えているのだ)と
ひとつの謎を解いたところで、何時の間にか雨の音は止み
カーテンの隙間から夏の夜明けの光が洩れてきています。

新聞屋さんが動き始めた。


「君、少し眠ったら良いよ。
幸福の黄色と朝の底に澱む群青の色を混ぜて
眠りの契約を、、、む、す、べ、、、ば〜」

半夏生