この世の中で詩人が一番純粋で尊い精神だと私は語った。
鉄道員のその男はいや、労働者が一番尊いと反論した。
長い旅路の果ての寒く閉ざされた季節の部屋に
突然と甦った思い出。
妻と二人の子を持つあの鉄道員は
二十歳にも満たない私を前に
何故あんなに熱弁をふるったのだろう。
何か笑ってしまう。
笑ってしまうよ。
故郷を出て初めて住んだ町は、鉄道の町で
鉄道員が多く住んでいた。
宿の前の大きな建物は
鉄道学校に通う若者の寄宿舎であった。
訳も無く口笛を吹いたり奇声を上げたり
若者は何時の世も、そんな風ではあった。
世慣れない私と
世慣れない彼ら、、、。
何か笑ってしまう。
笑ってしまうよ。
バス通りの裏手は、果ても無いススキ野。
あの、ススキ野に埋もれて
私の精神は空中分解。
ぼろぼろのガラスの論理など粉々に砕け散り
それでも、そんなものに心を裂かれて
血を流した。
一つの時代の終わりに、、、。
雪の降る夜は点々とレールの下に
凍てつき防止の火が灯る。
鉄のレールの鉄サビの臭いと冷たい肌触り。
何もかも忘れ果てても
そんなものだけは生々しく甦る、記憶の不思議。
あの街を後にしてどれだけの月日が経ったろう。
いまはただ、懐かしいよ。
私に労働の尊さを懇々と説いた
あの、中年の鉄道員はどうしたろう。
何か笑ってしまう。
笑ってしまうよ。
記憶 旅路の果てに