吉田家の春
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春の終わり頃
日の長さを持てあまし、ふと
目に飛び込んで来た道標に誘われ
車のハンドルを切りました。
いわゆる、道草の道草。
マーガレットの花で埋もれた
アプローチを辿ると目に飛び込んで来た
茅葺き屋根の古い家屋。
国指定重要文化財「吉田家住宅」。
それにしても、何というなつかしさ。
時空を超えて
生まれ故郷の家を
目の当たりにしているような。
裏木戸を開けて母が出てくるような
父の声が何処からか
聞こえて来るような
縁側に背を丸め、
祖母が縫物をしているような
庭の隅から、ふらりと幼友達が
姿を現しそうな。
卯の花
縫物をしている祖母の側に
赤いチャンチャコを着た
私が遊んでいる。
日に温もった縁側に
赤や黄色や緑に染められた
小さな貝殻のおはじき 広げ
貝殻と貝殻の間を
白い小指でそっと切る。
周りの貝殻に指が触れないように。
それから、親指と人差し指で
丹念に貝殻と貝殻を
弾いてゆくのだ。
強からず、弱からず
何という真剣な眼差し。