♪ 真白に置く霜 峰の雪 静かに覚めくる村の朝
ホイホイ ホイホイ寒雀 有田の案山子に 日の光 ♪
案山子の伝六はこの村の宗助さんが作った案山子です。
顔は簡単に「へのへのもへじ」だし破けた編み笠に宗助さんの
お古のTシャツをパサリと掛けられただけの本当に
いいかげんな作りになっていました。
こんな案山子でしたから、稲穂が実る頃に
田んぼに立てかけられても、雀やカラスが伝六を人間だと思って
恐れるなんてことは全くありませんでした。
それどころか、お腹一杯お米を啄ばんだ後の鳥たちの
ちょっとした憩いの止まり木にさえなっていたのです。
お米の収穫が終わった収穫祭の夜に、お米を守って働いた沢山の案山子たちは
村の公民館の広場に集められて、「案山子コンクール」祭りに参加したりも致しました。
その中には、空缶をくり抜いて作った金や銀のメダルを
首から掛けてもらった案山子もおりました。
でも伝六は田んぼの隅の端っこにポツンと立てかけられたまま
すっかり、みんなから忘れ去られておりました。
そう、とても「コンクール」に参加できるほどの立派な案山子ではなかったからです。
伝六はため息をつきました。
涙がのの字の目から流れ落ちました。
それを見た太陽が、短い晩秋の日を終えて山の端に足早に沈もうとしていましたが
少し時を止めて聞きました。
「どうしたの案山子さん」
伝六は本当に綺麗な太陽がさらに一段と美しい薔薇色の
顔を輝かせて、みすぼらしい案山子の自分に
声をかけてくれるなんて、とても信じられないと言った風に
ポカンと太陽を見つめました。
そして、言いました。
「ああ、太陽さん 私は何のためにこの世に生まれてきたのか解からないのです。
こんなにみすぼらしく生まれ、鳥たちからお米一粒すら守ってあげられなかった。」
「でも、君は鳥のとても良い憩いの場所だったよね?」
案山子はのっぺりとした顔を夕風にクシャッとゆがめて言いました。
「止めて下さい、 それが僕にとってどんなに屈辱だったか!」
そういって案山子は又新たな涙をのの字の目に浮かべて泣きました。
続く
「伝六」案山子のお話