庭の春

「馬酔木」は名前が先。
「昴」は星が先。
名前と物とが結び付く時
人は心に宇宙を宿していきます。

桜草は昔、裏山の斜面の
蕗の葉の茂る中に
可憐に咲いていました。
私が真剣にコロボックルを探した
亜炭山と呼ばれた裏山。
戦時中に亜炭を掘ったとかで
幾つかの横穴が残る所。
あの桜草とこの桜草が
結びついたのは何時のことだったか。

「沈丁花」はたぶん誰かの書いた詩の中に有った気がする。
だけれど、これが沈丁花だと誰が教えてくれたのだろう。
金木犀や夾竹桃、梔子(くちなし)や一人静。
誰がこれはそうだと教えてくれたのだろう。

馬酔木花を手折って持って来てくれた友がいた。
毎年、お雛様の頃に贈られた一鉢の桜草が
今では我が家の庭いっぱいに増え咲く。

花との出会いを辿ると、飾らない人の真心に行き着く。
花にはいつも優しい思い出が寄り添っている。
ハレルヤ。
私の人生も捨てたものではなかったと思い至る時。