河津桜

坂戸はすみよしの小さな川の土手に
植えられた河津桜はまだ若木。
後、10年もしたら見事な
桜の木に成長するだろうか。
何年か前、伊豆を旅した時、
身を切るような風の冷たさの中で
満開の河津桜を見たけれど、
ああなるまでにはもう少し
年月がかかるだろう。

だけど、10年なんてきっと
瞬くうち。

成長した桜の木と様変わりした
田園都市を
空飛ぶ鳥はどう見るのだろう
私はどこに居るのだろう


 夕日が白壁を赤く染める時
人々の家の窓に明りが灯る少し前

風は懐に秘めたわずかばかりの温もりを
容赦なく野末に投げ捨て、
春に浮かれ、彷徨い出たものに
冷たい一瞥を投げかけはじめる。

忘れてはいない
春とはそのようなものだ。
綻びかけた花の上にも無情の霜を置く。
夕日はまるで砂時計のように
山の端に時を流し込む。

だから慌ただしくも急ごう
すれ違う人の顔がまだ見えるうち、
淡いさくら色が残光をかき集めて空に有るうちに
花が時の謎を解くその秘密の幾つかを
私も知りたいのだから。