秋桜(コスモス)
老人が一人、三脚を立てたまま一か所を動かない。
あれもこれもと蝶のように花を渡り歩いていた私は
ふと、ファインダーを覗いたまま
じっと動かない老人が気になり始める。
風に揺れる花の姿の一瞬をカメラに捉えるべく
息詰まるような戦いをしている老人の姿。。
光が、風が、花の上に確かに瞬時瞬時の変化をもたらしては来るが
彼はどんな容貌を花の上に待ち望んでいるのだろう。
遥かなる時の彼方の
しかし記憶には、くっきりと鮮やかな初恋の少女の面影か?
淡色の日傘をさして一人の婦人が通り過ぎる。
彼の手元の花を訝しげに覗きこみながら。