冬の風景


太郎を眠らせ 太郎の屋根に雪降りつむ

次郎を眠らせ 次郎の屋根に雪降りつむ

            三好達治

雪はどうして世界から色彩と音を消し去ってしまうのだろう。
それは、たぶん眠るためかも知れないね。
風うさぎも枝に残るユズの実も、太郎の家も次郎の家も
みんな静かに眠っている。
やがて訪れる春の夢を見て眠っている。

夢は全てを越える。
時も空間も。
私は幼い姿で野中を駆けている。
見たことがあるような無いような野の只中。
母が私を呼んでいる。
ああ、確かに呼んでいる。
呆(ほう)けていってしまってからは
夢の中でも決して私を見なかった母が。

雪はどうして世界を黙って包み込むのだろう。
愛と云うには限りない非情の広がりで
愛と云うには冷たすぎる両の腕で。
それは多分眠るためだね。
過去から引きずる多くのものを
夢の世界に預けてしまうためだね。
そして、再生の目覚めが訪れる。

私はそう思うのです。
南無観世音菩薩。