サザンカ
蓬莱おろしという北風が、まっこうから吹き降ろす家に生まれた。
北国の村の中でも、一番遅く春が訪れる場所であった。
だから、冬に咲く花など見ることなく育った。
誰も居ない北の丸公園のベンチに、
時間と人生を一人もて余していた時
初めてこの花を公園の垣根に見た。
凍えるような季節の中で、風に震えながら赤く咲くこの花を見た時
信じられない奇跡を見る思いだった。
奇跡も慣れれば日常になる。
慣れるとは怖い事だ。
たまにはサザンカをみつめて、見えない未来に慄きながら
一人北の丸公園を彷徨った日々を思い出すのも良いのかも知れない。